3.生物多様性をつくる仕組みを知りたい
―今後、どのような研究の展開が考えられますか?
普通これだけ大きな進化過程は古生物学的に研究するものですが、今回の研究で僕らは「鳥類も恐竜も指の発生の仕方は同じ」と主張していることになるので、これから鳥類を研究する時はそれを前提に議論を進めることができます。例えば、現生の生物の発生過程を見ると、生物がその形をつくるメカニズムがわかるため、過去の生物がどのように発生してきたかを類推することができます。あるいは現生の生物を二つ比べると、過去に存在していた生物をより正確に類推することができます。このように生物多様性を発生学的に考える「発生進化学」という学問は、発生学の一分野として、特にここ10〜15年で盛んに研究されるようになりました。本研究は、現生の生物を見ることで過去の生物の進化過程を議論できることを示した、一つの端的な例と言えるでしょう。
そもそも発生学とは、最終的にはヒト、つまり自分はどうやってここに存在しているか?を考えるための一つの学問です。そして発生学という学問は、僕が研究を始めた1990年代頃までずっと、如何に生物が共通のシステムを使って生まれるのか?というジェネラリティーを調べてきました。もちろん今だって、わかっていないことはたくさんありますよ。骨一本だって長さがどうやって決まっているのか、僕らはまだ知らないのです。それでもやはり昔に比べたら、生物が何を共通のシステムとして使っているか、だんだん見えてくるようになってきました。今回の研究は、恐竜と鳥類の関係でしか考えられない鳥類の特殊さを考える研究です。ですから、ようやく生物の共通性を考えるところから、生物の多様性を考えるところへ、研究が進んできたと言えるかもしれません。
―最後に、「生態適応」というキーワードをどのように捉えていますか?
僕の専門は、このように動物の多様性と進化を理解することです。生物がどう多様になっているか、どう進化しているかを理解することが、「生態適応」の理解に重要なファクターであると僕は信じています。今回の研究では、それをこのような方法を用いて調べられることを、鳥類と恐竜の関係という端的な例で示しました。最終的に僕らは、この地球上に存在している様々な生物が多様性をつくるための共通の仕組みを知りたいのです。いや、そんな仕組みがあるかどうかもわかりませんよ。しかし、それがあるかないかも含めて、様々な生物が様々な形をしている理由を知りたいのです。今はそれを考えることのできる時代になってきたのかもしれませんね。
―田村先生、本日はありがとうございました。