恐竜の前足と鳥類の翼の「指」は同じ 150年続く指論争に終止符を打つ発生研究

1.150 年続く指論争に終止符を打つ発生研究

―「鳥類が恐竜の一部から進化した」説は有名ですが、本研究で明らかになった点は何ですか?

 鳥類が恐竜の一部から進化したことは様々な証拠から広く支持されてきました。しかしそこにはいくつかの矛盾点が指摘されており、それを理由に鳥類恐竜起源説を否定する説も唱えられています。つまり問題点として残されているパラドクスが解決されなければ、パズルはすべて組み立たない状態でした。その最後のピースが、「指」の問題だったのです。 150年続く「指」論争を今回、私たちの発生研究で解決しました。


図1.恐竜と鳥類の指形態の類似性

―150年も論争が続く「指」問題とは何ですか?

 古生物学的に恐竜から追いか けて鳥を見ると、鳥の翼の中にある指は「第1−2−3指(人間で言うと、親指、人さし指、中指)である」とされていました。 一方、現生の鳥を扱う発生学などの学者たちは「いや、それは第1−2−3指ではなく第2−3−4指(人さし指、中指、薬指)だ」と主張していたわけです。要するに、化石のつながりで見ると第1−2−3指であるのに対し、現存の生物から見ると第2−3−4指である。このパラドクスは鳥類と恐竜の類縁関係を否定するに値する重要な証拠として議論されてきたのです。

 始祖鳥の発見以来150年に及ぶこの問題を解決しようと、私たちは発生学の立場からニワトリの前足の指が形成される発生過程を詳細に追跡しました。 実は発生学的に第2−3−4 指であるとしてきた根拠は希薄なもので、これまでその根拠となっていた実験をより詳細に調べる必要があると考えたのです。 私たちはこれ以上無理だというところまで詳細に、時間的にも空間的にも色々な範囲で調べ直しました。その結果、その3本の指が第2−3−4指ではなく、第1−2−3指として形成されていることを証明したのです。